Quantcast
Channel: EBook2.0 Forum»スティーブ・ジョブズ
Viewing all articles
Browse latest Browse all 4

EBook2 Review (Vol.2-6, 10/27) :ジョブズと出版

$
0
0

アイザックソンの「公式」ジョブズ伝が発売になり、予想通り版元のサイモン&シュスター(S&S)を潤している。生前(2008年)、出版ビジネスは「救いようもない(unsalvageable)」と語っていたが、そうでもないことを身をもって証明したのは皮肉というべきか。ジョブズが出版界に残した影響としては、E-Bookの委託販売制による価格維持と、その逆のiPadアプリの低価格化がある。価格革命は後者のほうが主導すると筆者はみている。

 

エージェンシー・モデルと低価格アプリ:2つの遺産

筆者は内容よりも価格と売れ行きに注目しているが、米国価格は、656頁のハードカバーの定価が$35に対して、大規模店の小売価格はほぼ半額の$17.88だ。これは仕入れ値に近い。エージェンシー価格の電子版は、アマゾンの$17.29に対して、B&Nの$16.99、Kobo$16.39と差が出た。講談社の邦訳本(2巻構成、448+342頁)は、印刷本が1,995円 (x2=3,990円)、電子版もまったく同じ! S&Sは電子版の価格を単純に印刷本定価の半額にしたので、結果的に電子版と印刷本の小売価格がほぼ同じになったわけだが、日本の場合は意識的に同額としている。

日米の比較をすると、英語版は約1,350円、邦訳版は3,990円と約3倍。電子版では、1,250円に対して3,990円と3倍を優に超える。電子版まで分売して同一価格というのは、「電子版など買わないで結構」と考えているようなものだ。あるいは「自炊防止価格」なのかも知れない。印刷本に対して設定した価格を、コストはもちろん、形態や販売条件(譲渡・再販不可、端末限定など)を越えて適用するのは不正常である。定価の「神聖化」というほかない。やはり「救いがたい」とみたジョブズは正しかったか!? (eBook USERに各国の価格データがある)

ジョブズ自身は、本よりテレビと電話で育った人間であり、本にも出版にも愛着や関心をもってはいなかったようだ。iPadに関連してなされた言行も、ダウンロード数について述べたものだけで、ビジネスへの影響力も、エージェンシー・モデルの導入を主導したことで記録されるくらいだろう。大手出版社を味方につけ、アマゾンを揺さぶったが、消費者の支持を得られず、アマゾンもまったく揺るがなかった。売れないことには話にならない。しかし、彼は紙の複製物としてのE-Bookを嫌ったが、「アプリ」を重視し、これを低価格で普及させようと考えていた。おかげで、100万ドル単位で製作したコンテンツも超低価格で売っている。これはジョブズの力であり功績だ。

今週号の『EBook2.0 Magazine』ニュースで取り上げたInkling社のアプリは$3.99だが、日本の出版社なら2,000円はつけたくなるだろう。これは印刷本を基準とした発想だ。

現実的な判断としては、アマゾンのように、印刷本→電子複製本→アプリという進化型アプローチが堅実なのだが、ジョブズはこの中間を嫌った。それはコンテンツではなくデバイスを中心に考えていたためだろうが、保守的な出版社を相手にしたくなかったのではないか。iBookstoreは出版社に任せたおかげで、パッとしない。

電子複製本を飛ばした拙速のおかげで、いま出版ビジネスは「活字出版」とか「書籍出版」という限定が外されつつある。iPadはまさに限界なき出版の可能性を拓く架け橋であり第一歩だった。この橋を渡るのはアマゾンだろう。価格は重要だ。コンテンツの価格革命は、E-Bookが米国において全出版の50%を占めるようになる前に、消費者の選択によって確実に起こる。 (鎌田、2011-10-28)

 

 

EBook2.0 Magazine, Vol.2., No.6, 10-27-11 CONTENTS

<ANALYSIS>

1. WebとE-Bookを統合するKindle Format 8 (会員向け)

2. 著者へのデータ開示:変化するパワーバランス (会員向け)

3. タブレットとニュースメディアは相性がいい

<NEWS & COMMENTS>

4. 電子教科書のInklingが料理教科書iPad版

5. 本の中身を章で分割→独立/再統合するSlicebooks

6. 電子本と印刷本、認知科学的には同等とグーテンベルク大学

 

 

<ANALYSIS>

1. WebとE-Bookを統合するKindle Format 8 (会員向け)

アマゾンのHTML5サポート (Kindle Format-8)は、WebとE-Book、オンラインとオフラインの統合に向けた重要な一歩。変化は必然だが、ソフトランディングできないと大事になる。(会員向け記事)

2. 著者へのデータ開示:変化するパワーバランス (会員向け)

米国大手出版社が著者への販売データ提供を始める。アマゾンが始めた情報開示は、著作者と出版社の関係を根本的に変えようとしている。仕入先ではなく、パートナーとして扱い、創造的協力の実績を上げないと、出版社の将来は暗い。(会員向け記事)

3. タブレットとニュースメディアは相性がいい

ニュースメディアにおけるタブレットの適性を評価する米国NPOの調査は、このデバイスの(初期ユーザーの)意外な側面を明らかにした。ユーザーの半数以上がハイレベルな情報収集と知的なコミュニケーション活動に使っている。やはりプロフェッショナルの国だ。

<NEWS & COMMENTS>

4. 電子教科書のInklingが料理教科書iPad版

あらゆる分野の実用・実習・実技…など「実」を含む教科書は、E-Book/アプリの最も期待される分野だが、情報デザインの方法論は形成途上にある。つまり、いまいちばん面白い。アップル系のInklingのiPad料理実技教科書シリーズはぜひ参考にしたいもの。1点3ドル。

5. 本の中身を章で分割→独立/再統合するSlicebooks

オライリー出身者がつくったE-Bookの製作・出版・販売サービスeBookPieが、「一切れだけ食べたい」読者のために、ショートコンテンツを手早く製作するSlicebooksというソリューションを発表した。保守派から目くじらをたてられそうだが、これぞデジタルでもある。

6. 電子本と印刷本、認知科学的には同等とグーテンベルク大学

Kindle、iPadを印刷本と比較する認知科学的研究をドイツのグーテンベルク大学が行い、「差がない」ことを証明した。今度はぜひ認知心理学的研究をやってほしい。現在のE-Bookには商品としてのオーラがない。完結性と信頼性を高めるI/Fが必要だ。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 4

Latest Images

Trending Articles





Latest Images